高槻くん、ハイ!

Text by ヒンクレヰ

まずいことになった――

B棟の精錬の間で、二人の白衣姿の男と向き合いながら、私――天沢郁未(あまさわいくみ)――は内心で臍(ほぞ)を噛んだ。

私の隣りにいる少女――巳間晴香(みまはるか)は、二人の男の内の一人に鋭い視線を向けている。

彼女が見つめているのは、伸ばした髪を後ろで括った、繊細そうな顔立ちの若い男――巳間良祐(みまりょうすけ)――晴香の兄だった。晴香は、この兄を連れ戻すために信者を装ってFARGOに潜り込み、そしてClass‐Cの過酷な待遇に今日まで耐え続けてきたのだ。

そしてもう一人は、パーマのかかった髪を長く伸ばした、やせぎすの男だった。こいつは高槻(たかつき)といって、研究員の中でも陰険極まりないサディストとして有名な男だった。良祐に会うためにB棟のMINMESに赴いた私達を、この精錬の間に呼び出したのもこの男だった。

こいつにまともな話が通じるとは思えない――私達を見ながらにやにや笑いを浮かべる高槻に、私はおぞ気にも似た危惧を抱いた。こいつが何を企んで私達を精錬の間に呼び出したのかは分からないが、どのみちろくなことではないだろう。しかし、久しぶりに兄との再開を果たした晴香は、高槻のことなど目に入っていないようだった。ただ、じっと喰い入るように良祐の顔を見つめている。

「良祐…」

「おい、お前の名を呼んでいるぞ。お前のことなのか?」

「…違うさ」

わざとらしく尋ねる高槻に、良祐は無理に感情を押し殺した声で答える。

「巳間良祐! 私を前にしてよくそんなことが言えたものね!」

激したように晴香が鋭く言った。

「同姓同名だぞ。本当に知らないのか?」

「ああ…偶然だ」

「何が何でもしらばっくれるつもり!? あなたが忘れたと言っても、私は絶対に忘れない! 忘れたりなんかしてやらないんだから!」

「………」

勝気そうな美貌から叩きつけられる言葉に、良祐は無言のまま苦しそうな表情で俯いた。その沈黙は、晴香の言葉への肯定以外の何者でもなかった。晴香はしばらくの間じっと良祐を睨みつけていたが、ふと、その目から鋭さが失われ、かわりに何処か遠くを見るような表情が浮かんだ。

「そう…あの頃のことは今でもよく憶えているわ」

晴香は静かな口調で、良祐との失われた無邪気な日々を語り始めた。



「ねえ、どうしてぱんつをぬぐの?」

「ぼくはおいしゃさんだからね、晴香のことをぜんぶしらべないといけないんだよ」

「う、うん…」

「さあ、こんどはおしりをこっちにむけてごらん」

「晴香、ちゅうしゃきらい」

「ふふ、これはちゅうしゃじゃなくてかんちょうっていうんだよ。ちっともいたくないからだいじょうぶだよ」

「ほんとに?」

「ほんとだよ。だからもっとおしりのあながよくみえるようにしてごらん」

「でも…はずかしいよ」

「おにいちゃんはおいしゃさんだからちっともはずかしがることなんてないんだよ」

「う、うん…わかった」

「さあ、おしりのちからをぬいて…」



「だああああああああっ! 嘘だうそだでたらめだぁぁぁぁぁっ!」

両手を滅茶苦茶に振り回して喚く良祐を、私と高槻はしん、とした目で見つめた。

「でもやられた本人が言ってるんだからねぇ…」と、私。

「まあ、幼少期の性的な興味の対象が年少の近親者に向かうってのはよくあることだからなぁ…」高槻がしみじみと言う。

「だからちーがーうー!!」

「あなたが私の兄じゃないっていうのなら別に関係ないんじゃないの?」冷たい口調で晴香が言う。

「うが〜〜〜〜〜〜〜」

頭をかきむしって呻き声を上げる良祐をよそに、高槻がきらり、と目を光らせて口を開く。

「それより俺はもっと続きが聞きたいぞ。研究員として実に興味深い話だからな」

「そうね…私も聞きたいわ。晴香のお兄さんがどんな人だったのか」と、私。

「わかったわ…」晴香が頷く。

「や〜め〜て〜〜〜〜!!」

実力行使で晴香の口をふさごうとする良祐を、私と高槻は二人がかりで床に押さえつけた。それを見ながら、晴香はまた、遠い日々への郷愁を噛みしめるように静かな口調で語り始めた。



「さあ、こんどはまえのほうをしらべるからね。もっとよくみえるようにあしをひろげてごらん」

「う、うん…」

ちゅぱっ

「ひゃんっ!お、おにいちゃん、そんなところなめたらきたないよ」

「どうして?はるかのからだにきたないところなんてひとつもないよ」

「だって…そこ、おしっこするところだもん…」

「だったら、よけいにきれいにしないとね」

ちゅぱちゅぱ…

「あんっ、だ、だめ…っ! そこ、そんなにしたら…晴香おしっこしたくなっちゃう…っ」

「ふふ…だいじょうぶだよ。おしっこがでたらぜんぶぼくがのんであげるからね」

「はひっ、いっ、いやっ、だめっ、おにいちゃん、おにいちゃぁ〜〜〜んっ!」

ぷしゃぁぁぁぁぁぁっ!



「すんませんごめんなさい許してください本当マジで勘弁してください」

「わかればいいのよ」

床に額をこすりつけて土下座する良祐を見下ろして、晴香はやたら偉そうに言った。

「で、認めるわね? 私の兄だっていうことを」

「それとこれとは話が別だ。俺は君の兄ではない」

良祐は突然ぱっと立ち上がるとまた沈鬱な表情に戻って言った。高槻が呆れたような口調で言う。

「おいおい、これじゃ埒があかないぞ。この女はお前のことを兄だと言うし、お前は違うと言う。一体どっちが嘘吐きの虚言癖なんだ?」

「こいつだ」

「こいつよ」

晴香と良祐がお互いを指さして同時に言う。

「あのなあ…」

高槻は半眼で二人を見やったが、ふと、その顔に残酷そうな表情が浮かんだ。

「おい、巳間」

「何だ」

「何よ」

「いや、男のほうの…お前、本当にこの女の兄じゃないんだな?」

「その通りだ」

「ほう…だったら」

高槻の顔に嗜虐的な笑みが広がった。

「この女の目の前で俺がお前を犯しても構わないんだな?」

「ああ、別に構わな…

…………って…………

えええええええええええええええええっ!?」

良祐の下あごががくん、と下がった。

「どうした? この女はお前の妹でも何でもないんだろう? だったら平気なはずだ」

「いや、ちょっとそれマジで普通におかしいって! ありえねーって! てか妹とか関係ないし! 意味わかんないし!」

「そうきたか」「こりゃまたびっくり」

私と晴香が棒読み口調で言う。

「さあ、どうするんだ? それともこの女の兄だということを認めるのか?」

「あ、あのなぁ…」

血の垂れそうなにやにや笑いを浮かべる高槻に、良祐はこめかみの辺りに冷や汗を流しながら両手をわななかせた。

「やっ、やればいいじゃない! あなたが私の兄じゃないって言い張るのなら!」

ぐび、と咽喉を鳴らして生唾を飲み込みながら、目をぎらぎらさせて晴香が言う。

「そうね、それが唯一の方法だと思うわ」と、私。

「お前らなあ…」

良祐は絶望的な表情を浮かべた。それを見やって、高槻がわざとらしくため息を吐く。

「仕方ない。では多数決で決めるとしよう。巳間本人にそこの女と兄妹ではないことを証明させるのに賛成の人ー!」

「ハイ」「はい」「はぁ〜い」

三人分の声がハモった。

「だぁぁぁぁぁぁぁっ! 多数決とか意味わかんないし!」

「往生際が悪いぞ、巳間。こうなった以上覚悟を決めろ」

頭をかきむしって絶叫する良祐に向かって、高槻が勝ち誇ったように言った。そして私にねっとりとした視線を向ける。

「じゃあ挿れる前に、そこのClass‐Aのお嬢様にこいつのケツの穴を舐めて柔らかくしてもらおうか。前々からClass‐Aの特別待遇には疑問を持っていたんでな」

「…わかったわ」

私は重おもしく頷いた。これから私達の目の前で痴態を繰り広げようという二人の男の心意気。それに応えなかったら女がすたる。泣き笑いのような微妙な表情で後ずさる良祐に向かって、私は足を踏み出した。と、私の腕を晴香が掴んで引き止めた。

「待って、私がやるわ」

「え゛…」

良祐の顔がひきっ、と固まる。

「晴香…」

「これはもともとあなたには関係ないことだものね」

思いつめた表情で私に呟いてから、高槻のほうに顔を向ける。

「それで構わないでしょう!?」

「いいだろう―――そういう趣向も悪くない」

高槻は小鼻を膨らませて言った。妹が兄のアヌスを舌で嬲るというシチュエーションに興奮を覚えているようだった。まあ、普通はあまりありえないだろう。

「いや、ちょ…それまずいって! 絶対まずいって!」

「男は度胸、何でも試してみることだな」

「同感ね」

顔を青ざめさせて逃げ出そうとする良祐を私と高槻の二人がかりで取り押さえると、良祐のズボンから引き抜いたベルトで胡座(あぐら)をかいた格好に手足を縛り上げた。そのまま体を前に倒してズボンごとパンツを引き下げる。

剥き出しになった無防備な尻を、晴香は兄妹の情愛に潤んだ瞳で見つめた。

「良祐…」

呟いて、そのまま舌先を近づけていく。

「ちょ、やめ…はうっ!」

ぴちゃっ。良祐のお尻の割れ目の底で、水音に似た音がした。ぴちゃぴちゃ…音はさらに続いていく。

「…んっ…くっ…はっ…」

苦悶するような表情を浮かべて、良祐は息を吐いた。襲い掛かる未知の感覚と必死に戦っているのだ。しかしその反応を楽しむように、晴香の舌先はアヌスの皺の一本一本を広げながら小さく円を描き、そしてすぼまりの中心に到達しては執拗にくじりたてる。そればかりか晴香は良祐の股間に手を伸ばして、玉袋を優しくマッサージすることさえしていた。当然、ペニスはビンビンにそそり立っていた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

「…よぉし、もういいだろう。これ以上やったらこいつがイっちまうからな」

高槻の言う通り、良祐のペニスの先端は既にせつなさで潤っていた。つまり先っぽがガマン汁で濡れ濡れだった。

晴香はとろんとした目つきのまま良祐のお尻から紅潮した顔を離した。晴香の唇と良祐の肛門の間に、ツッと透明な唾液の糸が伸びる。晴香の舌でたっぷりとほぐされた良祐のアヌスはぬらぬらした唾液を纏ってぽっこりと膨らみ、性器以上に淫猥な様相を呈していた。高槻が、ベルトを外してズボンを下ろす。アナルリップを見てよほど興奮したのか、既に高槻のペニスは爆発寸前かと思うほどに怒張していた。

「じゃ、挿れるからな。体の力を抜いて下腹に力を入れろ。糞をする時みたいにいきむんだ。いいな!?」

そう言うと返事を待たず、高槻はペニスの先端を良祐のアヌスにあてがってそのまま一気に挿入した。

ずにゅるっ!

「ぐぅっ!!」

呻いて、良祐が体を反らす。

驚いたことに、良祐のアヌスは怒張した高槻のペニスをそっくり根元まで受け容れていた。そして亀頭が露出する寸前まで引き抜かれると、また根元まで挿入される。そしてまた引き抜かれ、挿入される。抜く。入れる。抽送が繰り返されるたび、良祐は苦しげな息を吐く。

「…ぅあぐっ! …っくはっ!」

「おおぅ…なんていやらしいんだお前のケツ穴はっ! 俺のペニスを全部飲み込んでしまったぞ! それに中が熱くて俺のペニスをきゅうきゅうしめつけてくるぞっ! まるでマンコそのもの、いや、マンコ以上のいやらしさじゃないかぁぁぁぁぁっ!」

「うぐぅっ、も、もうやめ…」

「なにぃっ!? そうか、もっとしてほしいのかっ! なんてスケベな奴なんだっ!」

自分の興奮を高めるためか、高槻は、良祐を辱める言葉をうわ言のように並べ立てながら、さらに抽送のスピードを速めていった。良祐の吐息に、少しずつ切なげなものが混じり始める。

私と晴香は目の前で繰り広げられる光景に、ただただ固唾を飲んで見入っていた。

「良祐…なんて…なんて素敵な貌(かお)をするの…」

兄が肛門を犯される姿に、妹が熱い涙を流す。

「は…晴香…くぅっ…みっ、見ないで…くれぇっ!」

切ない吐息の下から良祐が懇願するが、私も晴香も目を離すことなんてできやしなかった。そう――私達にできるのは最後まで二人を見守りつづけることだけだった。

やがて、高槻の顔に恍惚とした表情が浮かんで腰の動きが止まった。玉袋がきゅっと小さくちぢむ。

「お…おお…」

高槻は視線を宙に泳がせて良祐のお尻にぎゅっと腰を押し付けたまま、小さく体を震わせた。お尻の筋肉がぴくぴくと痙攣する。ついに絶頂に達したのだ。と、一呼吸遅れて良祐のペニスからも白濁した粘液がぴゅっと勢いよく飛び出した。何という事だろう。ペニスには指一本触れてはいないのに、お尻への挿入だけで、しかも高槻とほぼ同時に、良祐は達してしまったのだ。

「ふぅ…気持ちよすぎて中で出してしまったぞ。…ん? くくく…そうか…お前もイったのか」

高槻が満足そうに言って、ずるりとペニスを引き抜いた。

「ううっ…」

良祐がびくっと体を震わせた。絶頂に達した直後で敏感になっているのだろう。

「良祐…おめでとう」

情事の余韻に息をつきながらぐったりと横たわる良祐に、晴香が涙を浮かべて微笑んだ。

そして、気付くと私の頬にも熱い涙が流れていた。

なんて――なんて素晴らしい男達なんだろう。そしてなんて素晴らしい兄妹なんだろう。

全身を滝に打たれるような清冽な感動に、私は声を殺して泣いた。

兄妹の絆に対して、自分が良祐を犯すという結論を下した高槻も――

他人の私ではなく、妹自ら兄の肛門を舐めてほぐした晴香も――

そして、同時に絶頂に達してみせることで二人の思いに応えた良祐も――

そう、これは愛だった。

精液の糸を引く二本のペニスと卑猥に充血して緩んだアヌスは、彼らの愛の絆の証だった。

私は今日、本当の、真実の愛の姿の目撃者となったのだ。

――お母さん、私わかったよ。どうしてお母さんがFARGOに入ったのか――

胸の中の母の面影に向かって、私はそっと呟いた。



<了>